音のある場所

今日もお疲れちゃん

憧れていた人

 

10月20日 日曜日

Zepp Diver CityでFLOWER FLOWERのライブを観た。

 

夜勤明けから帰ってきて、お昼すぎ。

そろそろ行くかと重い腰を上げて準備をする。

どんな格好で行くか悩んで、あの頃聴いていた時のありのままの姿で行きたくなった。

ジーンズにシャツと黒のジップアップパーカー。

ここ数年は帽子を被るようになったけど、昔は帽子なんて持っていなかった。

だから鏡を見て、今日は帽子は無しでいっか、と決めて家を出た。

子どもの頃から聴いていたあの歌声。

初めて生で聴けると思うと、とてもワクワクした。

ライブハウスに到着してもうすでに開演時間が迫っていた。

中に入ってすぐにドリンク交換を済ませる。

プラスチックのカップに注がれたビール。

それを飲みながら暗い箱の中に入る。

すると、中にはたくさんの人がいた。

いつもとは違った雰囲気。

老若男女といった人たち。

子どもづれの家族、年配の方、ヤンキー風のお兄さん、スーツ姿のリーマン。

たくさんの世代に支持されているんだと肌で実感した。

扉の近くの端っこでFLOWER FLOWERが出てくるのを待つ。

箱の中がさらに暗くなり、ステージにだけスポットライトが当たる。

真ん中に現れたのは yui

その姿が目に飛び込んできた瞬間、目頭が熱くなった。

体に力が入って、彼女はただそこに立っているだけなのに胸が締め付けられる。

あぁ、そっか。

あの人は自分にとって、とても大きい存在だったんだ。

ゆっくりと目を閉じて、yuiが歌い出したのを耳で確かに感じた。

 

 

 

2010年

 

「これ、確認しといて」

中学2年のまだ肌寒い春前に、先生からCDを渡された。

毎年卒業シーズンに差し掛かる前に3年生を送る会という催し物があった。

それの実行委員になった俺は、スライドショーで使うBGMの担当だった。

卒業する先輩たちの中学3年間の思い出の写真を体育館のでっかいスクリーンに映す。

それに使われるBGMが入ったCDを確認しといて、とのことだった。

家に帰って早速パソコンにCDを取り込む。

そこにはいくつかのアーティストの名があった。

いきものがかり、ゆず、コブクロ、他にもいた気がする。

スピッツのロビンソンもその時に初めて聴いた。

今ちょうどTwitterで、アフリカの兄弟であろう少年2人が優しい声とギターで歌っている動画が流れて嬉しくなったばかりだ。

そして、そのCDのなかにYUIを見つける。

どのアーティストも1曲か2曲しかないなかで、YUIはアルバムが丸々3つも入っていた。

FROM ME TO YOU 、CAN'T BY MY LOVE、I LOVED YESTERDAY

片っ端から聴いてすぐに虜になった。

iTunesに取り込んで自分のiPod nanoに同期させる。

その日からYUIを聴き始める日々が始まる。

 

それまでもYUIの音楽を聴く機会はたくさんあった。

あの時代はテレビをつけたらとにかくYUIの声が聞こえてきた。

印象に残っているのはauLISMOのCM。

有名なCHE.R.RYがテレビから流れてきて誰もが口ずさんだと思う。

BLEACHの主題歌Rolling starも一世を風靡した。

小学校の頃ですでにYUIの音楽は飽和していた。

そして中学に上がり、まさかのルートで音源を手にすることができた。

塾の帰り道はいつもYUIAvril Lavigneを聴いた。

学校の英語の授業でAvrilのComplicatedかGirlfriendのどちらかを見たんだ。

それからというもの、この2人の音楽を死ぬほど聴いた。

中学3年生になって受験モードに突入。

ちょうどその時にGLORIAがベネッセのCMで使われていたのも覚えている。

GLORIAをいつも聴いて勉強に打ち込んだ。

3つのアルバムのなかで特にお気に入りだったのがHow crazyとHighway chanceだった。

歌詞の意味はよくわからないけどいつも口ずさみながらチャリを漕いで家に帰る。

毎日毎日聴いた。

中2の誕生日に確かギターを買ってもらったけど物の見事に挫折。

YUIやAvrilみたいに弾きたいなぁってずっと思っていた。

エレキじゃなくてアコギを買ってもらったらちゃんと練習したのかな?笑

でもあの頃はきっとアコギの音の良さに気づけなかっただろう、、、

 

2012年〜2013年

 

高校生になってYUIが活動休止になることを知る。

その頃にはもうロックバンドに目覚めてワンオクからcoldrain,SiMと今じゃかなり有名になったバンドを聴いてた。

自然とYUIの声を聴く機会が少なくなった。

けれどそんなある日、テレビから聴き覚えのある歌声が。

何かのCMで流れていたその音楽はFLOWER FLOWERと下に書かれていた。

ボーカルはYUI

曲のタイトルもわからない。

でも、彼女が再び歌っていることはわかった。

鳥肌が立つくらい食い入るようにCMの音楽を聴いた。

それから再びYUI時代のときの曲を聴き始める。

スマホが復旧し始めて様々な情報が手に入る。

YUIという人がどういう人物でどういう生い立ちだったのか。

『物心が付く前から母子家庭で育つ』

自分も全く同じだった。

『AvrilのLet Goに出会い衝撃を受ける』

昔から何か、2人の音楽は通じるものがあるなぁと思っていたらまさかの、YUIにとってはアヴリルがルーツだったことを知る。

この時に自分の中ですごく納得できたのを覚えている。

『高校の学費を稼ぐためにバイトに明け暮れる』

自分も高校時代はバイトばかりだった。

学費を払わないといけないのと、家に帰ると電気ガス水道のどれかが止まっていた。

やべえやべえ言いながら毎日バイトして、とてもじゃないけど勉強どころじゃなかった。

気づいたら進学クラスと呼ばれていたのに大学に行かなかったのはクラスで2人だけだった。

行かなかったんじゃなくて行けなかったんだ。

受験料が高すぎて一つ受けるだけで5万は飛ぶ。

唯一受けたのは防衛医大だけだったなぁ。

受験料がタダだったからね。

レベルは段違いに上だったけれど。

次の日受験だっていうのに学校から家に帰ったらもぬけの殻で、新しい家に引っ越してた。

正確には引っ越し作業中だった。

引っ越しというよりは住んでいた家に住めなくなって追い出されたって感じ笑

今思えば、よくあの時にグレなかったなと思う。

あの頃そばにいた人たちみんなに言われるけど、俺からしたらグレる暇もなかった。

それほど必死に生きていたんだよな。

そんな自分と少しYUIを重ねて見ていた。

だから、ジーンズを履いてあぐら掻いて座りアコギ1本で歌う彼女の姿がとてもかっこよく見えたんだ。

 

2015年

 

高校を卒業して、フリーターとして働く日々。

小学校からの幼馴染で高校時代から付き合い始めた彼女と半同棲していた。

YUIが好きな子でカラオケでよく歌っていた。

当時働いていたお店の店長に勧められてアコギを買った。

最初は全然弾けなかったけど、なんとか形になった時にすごく感動した。

もちろんYUIの曲を練習した。

ブックオフYUIのスコアブックを安くで買ってきてひたすら練習した。

家でYUIの曲を練習していると、横で彼女が歌い出して、それだけでもう幸せだった。

彼女もまた、高校の時に父親を亡くして母子家庭になって、妹と弟の面倒を見るために大学を中退していた。

2人してフリーターでこの先どうなるのか不安だったんだなと今だからわかる。

ある日、YouTubeYUIがストリートライブをする動画を見つける。

ふらふらと1人歩き、街中の商店街で「ここでいっか」と言わんばかりにストンと座りギターを取り出す。

YUIが歌い出すと周りの人が気づいてすぐに輪になった。

今じゃすぐスマホで撮影する人ばかりだけど、当時はガラケーの時代だったからか誰もYUIを撮ろうとする人はいなかった。

みんな一心にギターを弾いて歌っているYUIを見つめて音楽を聴いている。

今とは全然違くて、それがなぜかすごく温かく感じた。

やりたいことも無くなり、毎日お酒ばかり飲んで、このまま自分の人生はどうなるのだろう?ってすごく不安な毎日が続いたときにこの動画に出会った。

それからまたYUIを聴くようになってバイト終わりの終電、電車の窓に映るジーンズを履いた自分の姿と、How  crazyの歌詞を重ねた。

『汚れたジーンズで乗り込んでいる地下鉄の窓 映っている自分 変わってなんかない あの頃のまま』

1番好きだった中学の頃から聴き続けたHow crazyという曲の歌詞の意味が、初めてその時にわかった気がしたんだ。

 

2017年〜2018年

 

それからバイトを辞めてとにかく東京に出よう、と千葉から出た。

そのタイミングで全てが変わるように、ずっと一緒にいた彼女とも別れて全て失った状態で渋谷で働き始めた。

TOKYOって曲がものすごく染みた。

『何かを手放して そして手に入れる そんな繰り返しかな?』

Winding roadという曲には渋谷が歌詞として出てくる。

さらにYUIに近づけた気がした。

何かを変えたい一心と、音楽とそばにいたい。

ただ生活の上で聴くだけじゃなくて、そばにないとダメなものにしたい。

そんな気持ちで渋谷に来てライブハウスによく行くようになる。

そこで出会う人たち、音楽、バンドはどれもすごいものばかりだった。

いろんな刺激を受けて自分も音楽をやりたい!と強く思った時にある人に出会う。

2018年去年の今頃に鳥取に免許合宿に行った。

正社員になる話が決まってさすがに免許は持っとかないとマズいだろと思い、1人で知らない土地に行く。

渋谷という街の喧騒から離れるために敢えて遠いとこを目指した。

その免許合宿にアコギを持っていった。

今思えばすごい行動力だなぁと我ながら呆れるけど、あの時は絶対に持って行きたかったんだ。

初日の教習所の人もびっくりしてたな。

人生初の路上ギターを鳥取駅前でやることにした。

あっちの方は結構寒くて1時間も弾いていたら指が悴むくらいには寒かった。

ドキドキしながらジーンズを履いてあぐら掻いてアコギを弾く。

憧れていたスタイルにようやく辿り着く。

すると、よかったらどうぞと通りすがりの女性がホットミルクティーをくれた。

めちゃくちゃ感動したのを今でも覚えている。

YUIスピッツを弾きながら初日を終えた。

次の日も同じ場所で同じように1人で音楽を楽しんだ。 

そしたら今度は、今にも海に飛び込んでいなくなってしまいそうな顔の30代くらいの男性が現れた。

よかったら何か弾いてくれませんかって訪ねてきて、スピッツの楓をやった。

男の人は黙って横に座って自分が歌っているのを聴いてた。

見ず知らずの人に聴かせるために歌うなんて初めてだったし、めちゃめちゃ緊張したのを覚えてる。

音が止まると、財布から千円を取り出してもらってくださいと差し出された。

いやいや受け取れないですよって言ったけどその人の顔を見たら、これは受け取らないといけない気がしたんだ。

歌も技術もない自分が音楽でお金を手にした瞬間。

あの日を生涯忘れることはないだろう。

あの人は今もちゃんと生きているのかな。

名前も知らないあの人。

それからも鳥取に滞在の2週間で何回か外でギターを弾いた。

鳥取は雨がよく降るらしくて、外で弾けない時もあった。

そういう時はホテルで映画を見たり。

一昨日くらいにKさんのお姉さんが赤々煉恋という映画を紹介していた。

ホテルで見た映画の一つ。

大好きなPTPが劇中歌として使われていてとてもいい映画だった。

観たのがちょうど今くらいの時だったからやっぱりPTPとは切っても切れない存在になっているのだと感じる。

雨が降っていてもギターを弾きたいときはアーチ型の商店街で弾いた。

夜が遅くなくてもお店が早く閉まるからシャッター街になる。

人も少ない。

そんな中、1人でギターを弾いていると自分の声とアコギの音だけが商店街に響く。

1人きりという孤独を感じるのだけれど、同時に自分が生きているという実感も味わえた。

きっとYUIもこんな感じでずっと路上でやってきたんだと思うと、また一歩近づけた気がしてとても嬉しかったなぁ。

 そこで初めてわかったんだ。

音楽はやりたいけど、別にみんなの前じゃなくても良い。

1人でも死ぬまで歌ったりアコギ弾いたりできればいいやと。

それができたらそれでいいんだと気づいた。

 

2019年

 

鳥取から帰ってきて正社員になった。

中央区で働くことになって、TOKYOという曲がさらに染みるようになった。 

STANDZのスタッフにもなって、いろんなライブに行くことが増えた。

どれもこれもかっこいい音楽ばかりですげえなあと思う毎日と反面、仕事のストレスがマックスになってきていた。

そんな時にTwitterYUIがあの頃と同じように路上ライブをしている動画が回ってきた。

衝撃だったね。

何かが弾けたようにまたYUIを聴きだして、それまで避けてきたFLOWER FLOWERも聴きはじめた。

CMから流れて衝撃を受けた時の曲が『月』という曲名だったこともこのとき知った。

それからひたすら聴いた。

ライブに行きたい。

一度も見れなかった。

今のYUIを観てみたい。

調べたらFLOWER FLOWERではYUIからyuiに表記を変えている。

そんなことすらも知らなかったくらいYUIの時から自分は進んでいなかった。

そして今月、彼女らのライブがあることを知る。

これはもう行くしかないだろ、チケットを取った。

 

 

 

 

 

目を閉じて、イントロが耳に飛び込んでくる。

『際限ない夜がつづいて消えたのよ』

これだ。

まさに衝撃を受けたあの曲が、1番最初に始まった。

感極まって身体中に力が入る。

あの頃と同じように、でも今はYUIではなくyuiとしての曲を口ずさむ。

ステージで歌う彼女は紛れもなく自分が大好きなアーティスト。

 ステージから自分のいる場所までは遠くて、顔もはっきりとは見えないけど確かにそこにyuiがいる。

同じ空間にいて、歌声を耳で感じれる。

こんなに幸せなことはないって思えた。

2曲目は最新のアルバムから時計という曲。

自分がFLOWER FLOWERを聴きはじめてすぐに好きになった曲。

いつもの激しいライブとは違って、まるで全身を優しく包み込むようなそんな気持ちにさせた。

モッシュやダイブなんて起こらないからその場から動くことはない。

ただじっとyuiが歌っているとこを見ていた。

そして、これはやっぱりバンドなんだと気づく。

音作りとyuiの声だけじゃない。

今まさにFLOWER FLOWERというバンドなんだと思わされた。

それがなんだかとても嬉しかった。

自分も今少しバンドに携わっている。

紆余曲折ありながらも、yuiは変わらずステージに立ち続けて今度はバンドとして今立っている。

同じように自分も少しは前に進めている気がした。

ギター一本で自分を取り巻く世界と戦った少女が大人になってるのもまた生きているというのを実感する。

自分もビールを飲みながらyuiの歌を聴いている。

確実に時間は流れている。

活動休止、結婚、出産、離婚、色々経験して大人になっているんだよな。

YUIが好きだった元カノも今じゃ1人の子どもの母親になっている。

俺は俺で好きなことを見つけてあの頃とは違う。

そんなことを思いながらライブを見ていたら、後ろ姿が同級生にそっくりな人がいた。

思わず声をかけそうになった。

しかも、それが1人だけではない。

あっちにもこっちにもいて、これはきっと俺が今過去を見ているんだと気づいた。

音楽を通じてここまできたんだってことをフラッシュバックしていたんだ。

 

あっという間に時間が過ぎてライブが終わってしまった。

いつもとは違う優しいライブ。

音も、照明も、空気も、お客さんもどれも優しかった。

yuiはこんなにも多くの世代から愛されているんだとわかって嬉しかった。

少し放心状態になりながら帰路に着く。

途中、STANDZのVo.Kazuyaさんから連絡あって少し会うことになった。

「帽子あげますよ」

そういって、ポケットから帽子を取り出して俺に渡した。

受け取ってそのままその帽子を被った。

そっか。

今日、家を出る前に帽子を被らないほうがいいなと思ったのはこのためだったのか。

今はこの人たちの音楽を支えるためにここにいる。

自分の中で憧れていた人から音楽という力をもらってきた。

今度はそれを誰かに届ける手助けをする番なのかもしれない。

 

 

 

 



 

 

 

Thanks.

DAIKI